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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)9577号 判決

第七、七九三号事件原告、第九、五七七号事件被告 敷山加津江

第九、五七七号事件被告 細野喜一

右両名訴訟代理人弁護士 伊藤憲郎

同 杉山朝之進

第七、七九三号事件被告、第九、五七七号事件原告 光岡銀三郎

右訴訟代理人弁護士 江川六兵衛

同 平井博也

同 伊東すみ子

主文

一、昭和三三年(ワ)第七、七九三号事件について

原告敷山の請求を棄却する。

二、昭和三三年(ワ)第九、五七七号事件について

1、被告細野との間において、原告光岡が別紙目録(二)記載の土地につき、普通建物所有を目的とする賃借権を有することを確認する。

2、被告敷山との間において、原告光岡が別紙目録(二)記載(ロ)(ハ)の土地につき、普通建物所有を目的とする賃借権を有することを確認する。

3、被告両名との間において、被告敷山が東京都世田谷区代田二丁目一、〇二一番地の一五宅地三三坪三合四勺を要役地とし、同所同番の一七宅地九坪一合四勺を承役地とする昭和三三年四月一日付契約にもとずく通行目的の地役権を有しないことを確認する。

4、原告光岡のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、昭和三三年(ワ)第七、七九三号事件及び同年(ワ)第九、五七七号事件を通じ、これを十分し、その一を第九、五七七号事件原告(第七、七九三号事件被告)光岡の、その二を第九、五七七号事件被告細野の、その余を第九、五七七号事件被告(第七、七九三号事件原告)敷山の、各負担とする。

事実

第一、申立

一、昭和三三年(ワ)第七、七九三号事件

1  原告敷山訴訟代理人は、「1原告敷山が、訴外細野喜一との昭和三三年四月一日付地役権設定契約にもとずき、東京都世田谷区代田二丁目一、〇二一番地の一五宅地三三坪三合四勺を要役地とし、同所同番の一七宅地九坪一合四勺を承役地とする存続期間昭和三三年四月一日から昭和五三年三月三一日まで、通行を目的とする地役権を有することを確認する。2被告光岡は原告敷山に対し、別紙目録(一)記載の建物部分を収去せよ。3訴訟費用は被告光岡の負担とする。」との判決ならびに右第二項につき仮執行の宣言を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

第一、昭和三三年(ワ)第七、七九三号事件について

一、まず原告敷山主張の地役権設定契約につき検討するに、仮に右地役権設定契約が締結されたとしても、右契約は原告敷山が本件土地を承役地とし、原告敷山の賃借する東京都世田谷区代田二丁目一、〇二一番地宅地三三坪三合四勺を要役地として、右要役地を所有する細野善一との間に締結されたものであることはその主張自体明らかであるところ、右設定契約の締結当時、既に本件土地は被告光岡が賃借占有していたことは次に認定するとおりであるから、これを承役地として右のごとく地役権設定契約を締結しても無効であるというほかはないのみならず、民法二八〇条、二八一条の規定によれば地役権者となりうる者は、要役地所有者その他要役地についてこれに準ずる直接支配を内容とする物権を有する者に限られているものと解するのが相当であって、賃借権者は地役権の主体となりえないものと解するほかなく、この点から云っても右地役権設定契約は無効というべく、従って右地役権の存在を前提とする原告敷山の請求は理由がない。

二、つぎに原告敷山は、予備的に賃借権にもとづき細野喜一の本件土地所有権に代位して、本件建物部分を収去することを求めるので検討する。

1  細野喜一が本件土地を所有すること、被告光岡は本件土地上に本件建物部分を増築所有して本件土地を占有していることは当事者間に争がない。

2  ところで被告光岡が右細野喜一先代長五郎から本件土地を昭和一六年一二月八日に賃借したことは当事者間に争がないところ、原告敷山は、被告光岡が右賃貸借に当り本件土地を原告敷山の賃借土地に通ずる通路として使用させることを特約したにも拘らず、本件土地上に本件建物部分を増築所有して右特約に違背したので、右賃貸借契約は解除された旨主張し、≪証拠省略≫を併せて考えると、原告敷山の賃借地の従前の借主である木村芳知枝は、地上家屋の建築に際して、右賃借土地への通路として本件土地の使用を確保するため、本件土地の賃借人である被告光岡との間に、これを通路として永久使用し得る旨の協定をなし、当時の土地所有者細野長五郎もこれに立会承認したことを認めることができるけれども、本件土地の賃料はその後も依然として被告光岡が他の賃借部分の賃料と併せて単独で支払い、木村はこれに関与することがなかったことは同証言によっても認め得るところであるから、右協定が被告光岡と細野長五郎との間に成立したかのごとき同供述部分はにわかに措信し難く、被告光岡銀三郎本人尋問の結果を併せ考えると、右協定は結局木村と被告光岡との間の協定に止まるものと認められ、同被告と細野長五郎との間の賃貸借の内容として特約されたものとまで認めることは困難であるというほかはない。他に右特約を認めるに足る十分の証拠はない。よって右特約の存在を前提としその違反を理由として賃貸借契約が解除されたとする原告敷山の主張はその余の争点を判断するまでもなく理由がないというべきである。

3  してみると、仮に原告敷山主張の如く、前記地役権設定契約が本件土地賃貸借契約として有効であり、原告敷山が土地所有者細野喜一に代位し得るものとしても、被告光岡は細野に対して右賃借権を主張し得るのであるから、原告敷山の予備的請求は爾余の点の判断をなすまでもなく理由がないものというべきである。

第二、昭和三三年(ワ)第九、五七七号事件について

一、原告光岡が被告細野喜一先代長五郎から、昭和一六年一二月一日別紙目録(二)記載(イ)(ロ)の土地をその主張の如き約定で賃借したことは当事者間に争がなく、≪証拠省略≫によると、被告光岡は右同日右長五郎から東京都世田谷区代田二丁目一、〇二一番地の内前記土地を含む第二号甲地三二坪四合五勺の部分を賃借したものであること、その際原告光岡と右土地に隣接する土地の賃借人である訴外秋元金太郎、同木村芳知枝の三者は協議の上、各自の賃借部分の内原告光岡はその北東部二坪、右秋元はその西南部二坪一合四勺五才、右木村はその北東部二坪二合九勺を、それぞれ、提供して公道にいたるまで長さ一二間七歩、巾四尺五寸の共通の通路(別紙第三図面記載の×路)を開設したこと、被告細野喜一は、昭和三三年七月二四日、その所有にかかる右原告光岡賃借部分を含む代田二丁目一、〇二一番の一宅地一八四坪三合九勺から同番の一四宅地五七坪四合六勺、同番の一五宅地三三坪四合五勺、同番の一六宅地二一坪三合一勺、同番の一七宅地九坪一合四勺を分筆したこと、右分筆の結果、原告光岡賃借部分は別紙目録(二)記載の土地全部の範囲になったこと、以上の事実が認められ、これに反する成立に争がない甲第九号証の三、四の記載坪数は前顕各証拠に照らしてこれを信用せず、外にこれを覆えすに足る証拠はない。

2 ところで被告両名は、右賃貸借契約が解除された旨主張するけれども、この主張の採用しがたいことは前説示のとおりである。

3 してみると、原告光岡が被告細野との間において、別紙目録(二)記載の土地全部につき、又被告敷山との間において、同目録(ロ)(ハ)の土地につき賃借権を有することの確認を求める部分は正当であってこれを認容すべきである。

二、1 被告敷山と被告細野との間において、昭和三三年四月一日、本件土地を承役地とし、被告敷山が賃借する東京都田世田谷区代田二丁目一、〇二一番の一五宅地三三坪三合四勺を要役地とする通行目的の地役権設定契約を締結し、右各土地につきその旨の登記手続がなされたことは当事者間に争がない。

2 しかしながら、右地役権設定契約が無効であることは前説示のとおりであって、したがって又右各土地につきなされたその旨の登記も無効というべきである。

3 よって原告光岡が、被告両名との間において、右地役権が存在しないことの確認を求める部分は正当として認容すべきである。しかしながら原告光岡は本件土地について賃借権を有するに過ぎないことは前叙のとおりであるから、被告両名に対し、右各地役権設定登記の抹消登記手続を求める利益を有しないものというほかはないから右抹消登記手続を求める請求部分は失当として棄却すべきである。

第三、むすび

以上説示のとおりであるから、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島一郎 伊藤博 裁判長裁判官江尻美雄一は転補につき、署名捺印することができない。裁判官 中島一郎)

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